一橋数学の出題傾向と対策
一橋大学・文系・2019〜2026年度の分析
まず,試験そのものの条件を確認する
試験時間120分,大問5題,完全記述式。解答用紙は大問ごとに1枚である。 出題範囲は,令和8年度一般選抜の実施教科・科目によれば [ 「数学 I 」・「数学 II 」・「数学 A 」(全範囲)・「数学 B 」(数列)・「数学 C 」(ベクトル) ] であり,数学IIIは範囲に入らない。 さらに数学Bのうち「統計的な推測」も範囲外である点に注意したい。
したがって極限・微分方程式・回転体の体積は出ず, 微分積分は多項式の微分積分に限られる。 や や をそのまま微分・積分することはできないので, 三角関数の最大最小は とおいて多項式に落とすのが唯一の道であり, 面積を求めるときも被積分関数が多項式になる向きに切る必要がある (第2回 大問2(3) がその典型で, で切ると が現れるので で切る)。
一方,ガウス記号 は範囲内である。 学習指導要領に名前は出てこないが,一橋は 2021年度 大問2 で 「実数 に対し を超えない最大の整数を で表す」と問題文中で定義して使っている。
の記号も, や分数関数の微分積分も, も一度も使っていない。
配点は学部により異なる。1000点満点に対する第2次試験の数学の配点は次の通りである。
同じ問題を解いていても,1問の重みは学部で2倍以上違う。
| 学部 | 数学(2次) | 2次合計 | 数学が2次に占める割合 |
|---|---|---|---|
| ソーシャル・データサイエンス | 330 | 750 | 44% |
| 経済 | 260 | 790 | 33% |
| 商 | 230 | 700 | 33% |
| 法 | 180 | 750 | 24% |
| 社会 | 130 | 820 | 16% |
形式は8年間まったく動いていない
この表は,実際の問題冊子8年分にあたって作成したものである。縦に見ると設計思想がはっきり出る。
| 年度 | 大問1 | 大問2 | 大問3 | 大問4 | 大問5 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2019 | 数列と整数(平方数でない項の存在) | 平面ベクトルと軌跡の図示 | 3次関数の接線と面積 | 円の内接・外接と面積の最大 | のマスとコインの得点 |
| 2020 | 整数( の余り・各位の和) | 三角関数( の解の個数) | 円周上の3点と内積の最大最小 | 絶対値つき定積分の最小値 | 硬貨・ちょうど 点になる確率 |
| 2021 | 整数(素数の個数の評価) | 数列とガウス記号( の和) | 三角形の存在条件と領域の図示 | 円と放物線・面積の最大 | さいころと定積分の融合 |
| 2022 | 整数() | 三角関数(面積の最大) | 論証と領域の図示 | 空間・線分の通過範囲の体積 | 確率漸化式(2つの箱) |
| 2023 | 整数と二項係数 | 2曲線の共通接線の存在 | 空間ベクトル・四面体の体積 | 格子点の番号づけ(数列) | 3人が順に投げるゲーム |
| 2024 | 整数() | 直交する2放物線と面積の最小 | 整式の割り算 | 空間・ひし形と面積の最小 | 正 角形と中心を含む確率 |
| 2025 | 整数(約数の個数と最大値) | 2円の共有点・軌跡の図示 | 定積分と解の個数 | 空間ベクトル・領域と円 | グラフ上の移動と条件付き確率 |
| 2026 | 整数() | 数列() | 3次関数と直線の傾き | 空間・立方体の切り口と錐体の体積 | ひもを結んでできる輪の数 |
| 分野 | 8年中 | 特徴 |
|---|---|---|
| 整数(大問1に固定) | 8 | 8年連続で大問1。「すべて求めよ」型と「示せ」型が半々 |
| 確率・場合の数(大問5に固定) | 8 | 8年連続で大問5。漸化式型と数え上げ型が交互に現れる |
| 微分積分(多項式のみ) | 7 | 面積の最大最小・接線・解の個数。出ない年は2022のみ |
| 空間図形・空間ベクトル | 5 | 2022年以降は5年連続。切り口・通過範囲・体積の最大 |
| 図形と方程式・平面ベクトル | 5 | 軌跡と図示が絡む |
| 数列 | 3 | 2021, 2023, 2026 |
| 三角関数 | 2 | 2020, 2022 |
一橋の問題文は「短い」
過去問を開いてまず驚くのは,問題文の短さである。 2024年度の大問1は「 を満たす正の整数の組 を求めよ」の1行, 2021年度の大問1は「1000以下の素数は250個以下であることを示せ」の1行である。
これは親切ではなく,意地悪である。8年間の40大問のうち, 小問に分かれていないものが25題——実に6割強を占める。 名大や九大なら「(1) まず を計算せよ」と梯子をかけてくれるところを, 一橋は梯子を自分でかけさせる。
対策は一つしかない。自分で(1)(2)(3)を作る訓練である。
小問がある場合,その並べ方は4通り
| 型 | 構造と対処 |
|---|---|
| A.具体例一般化 | (1)で や特別な値を計算し,(2)で一般の へ。確率の大問に多い。 (1)の計算ミスは以降すべてに波及する。 |
| B.道具を先に配る型 | (1)で恒等式や必要十分条件を示させ,(2)でそれを使わせる。 2022年度の大問3,2023年度の大問4がこの型。「(1)を使う」と決めてかかってよい。 |
| C.すべて求めよ | 整数問題の定番。必要条件で候補を絞り,十分性の確認を書かないと大幅減点。 |
| D.図示せよ | 軌跡・領域。境界を含むか含まないかを明示しないと減点される。 8年で4回出ており,一橋の名物である。 |
難易度と目標
一橋数学は「文系数学で日本最難」と言われる。 だが実際に手を動かすと,難しさの正体は計算量ではなく着想であることが分かる。 使う道具は教科書の範囲を一歩も出ない。出ないからこそ, その道具をどう組み合わせるかだけで差がつく。
目標は2完+2半(50点前後)である。 数学の比重が重い学部(ソーシャル・データサイエンス・経済・商)でも,60点あれば十分に戦える。 逆に0完で終える受験生も珍しくないのがこの試験で, 「完答できる1題を確実に取りきる」ことが,5題に薄く手を出すよりはるかに価値が高い。
なお,8年間の40大問のうち,設問文に「示せ」または「図示せよ」を含むものが7題ある (2022年度 大問4の「グラフを描き」を数えれば8題)。 答えの数値を出す力だけでなく,論証を最後まで書ききる力が正面から測られている。 ただし第1回だけは「示せ」が1問しかない。これは 2020・2024・2026 年度と同じく論証の比重が軽い年を想定した構成で,「今年は論証が出ない」という年も実際にあることを体験してもらうためである。
この分析からつくった予想問題集
合格答案をつくる シリーズは、2019〜2026年度のこの出題分析をもとに書き下ろした一橋数学のオリジナル予想問題集です。本番形式の問題に加え、どこで何点入るかを示した採点基準と別解を収録しています。